日本を滅ぼす『偽デフレ』の正体

賃金下がって食品も小さくなる謎・・・
長いこと日本はデフレと言われ続けてきましたが、世界が好況不況を繰り返している中で日本だけが20年以上もずっと状況が変わらないのはおかしくないでしょうか?
異次元緩和で市場に膨大な資金を供給した上にマイナス金利まで行っても、一向に景気が回復しないのはなぜ?
このデフレは何かがおかしい。
いい加減それに気づく頃ではないでしょうか?
デフレーションとは、継続して物価が下落していく状態。
需要に対して供給が多すぎる時に発生する現象です。
しかし、現実の人員やスーパーの商品は本当に供給過剰になっているでしょうか?
エセ賢者にはそうは思えません。
企業は現在人手不足で、有効求人倍率は毎年上昇しています。
2018年の人手不足倒産は400件以上で、失業率は過去最低レベル。
どこもかしこも労働力が足りない。
一方で食料品や日用品は日々値上げを繰り返し、サイズはどんどん小さくなっています。
ガソリンや光熱費、水道代も毎年上がっています。
過去の大恐慌のようなデフレ不況なら街には失業者が溢れ、売れない商品が打ち捨てられているはず。
しかし今の日本には過剰人員はいないし、主要な生産物は縮小しています。
ケインズのマクロ経済学で言うデフレ不況とは全く違いますね。

一方で、需要は確かに減少しています。
賃金の上昇が鈍い状況で消費税が10%に増税され、年々社会保険料の負担が大きくなっているからです。
若者に金がなくて有効需要が落ち込んでいるのは間違いない。
需要が下がっているのに、消費者物価は高止まりしている。
これはもうデフレじゃない。
スタグフレーション(不景気で物価が上がる状態)でしょう。
このスタグフという現象は、供給側が何らかの制約を受けて増産が十分に行われない時に発生することがあります。
過去のオイルショックでは原油価格の高騰により生産が縮小し、多くの先進国がスタグフレーションに悩まされました。
現代の日本において生産を縛るものは何か?
それはおそらく少子高齢化です。

あなたもご存じの通り日本は平均寿命が延びると同時に少子化が進み、どんどん高齢者の比率が高くなっています。
2019年には総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は、27.3%に達しています。
若者が減れば当然労働者も減るので、生産力も低下します。
生産技術の進歩もあるのでトータルの生産量はそれほど落ちないかもしれませんが、人間自身の生産力は間違いなく低下します。
日本の一人当たりGDPは1988年は2位でしたが、2018年には26位に転落しました。
もちろん技術開発の遅れや労働環境の悪化も原因でしょうが、海外に比べて生産性が上がらないのは確か。
定年後にも働く高齢者は増えていますが、若い頃と同じだけの仕事ができるわけでもない。
仮に日本における年間の米の生産量が1000万tだとしましょう。
人口が1億人なら、一人当たりの取り分は平均で100kg。
高齢化で農業人口が減っている影響か、日本における米の生産量は年々下がっています。
人口がそのまま生産量が700万tまで落ち込めば、一人の取り分は70kgまで下がります。
そりゃ食べ物も小さくなりますよね。

もちろん所得格差があるし、米以外にも様々な製品で生活が成り立っているので、米の平均消費量だけで正確に判断できるわけではありません。
けれど、人間が基本的に必要とする物に関して考えるなら、概ね間違ってはいないのではないでしょうか?
年収1億円の社長だって、常人の何倍も食事や日用品を必要とするわけじゃない。
輸入品だって輸出で儲けたお金で買うので、結局日本の生産量と消費量が比例することには変わりない。
生産性が低下すれば、日本全体が貧しくなります。
厄介なのは、生産量の低下によるインフレが公表される物価指数に反映されにくいこと。
コアコア指数は食料やエネルギーを除いた物価なので、生鮮食品や電気代が上がっても指数は上昇しません。
メーカーがこっそり内容量を減らして実質的な値上げを行っても、それがインフレの数字に表れてくるわけではありません。
エンゲル指数が上昇しているので食料の実質的な価格が上がっているのは間違いないけれど、物価指数には反映されない。
その結果インフレが抑えられ、デフレになっているように見えるのではないでしょうか?

経済活動の主体である若者の消費は、社会保障財源の課税によって落ち込んでいます。
具体的に言うと、消費税・年金保険料・健康保険料によって給料の手取りが減っています。
月給30万円のサラリーマンで約10万円。
先ほど述べた高齢者の比率とだいたい同じ。
収入の1/3が社会保障のために徴収されているから、現役世代の購買力はボロボロです。
不況だから需要が伸びないのではなく、現役世代の収入が高齢者に奪われているから増えないのです。
①経済の波によるデフレ(風邪)・・・金融政策や財政政策によって解決可能で、自然回復する
②消費高齢化によるスタグフ(癌)・・・手術で病巣を取り除かなければ回復しない
この二つを混同してはいけません。
現状の日本で財政出動するのは、癌患者に風邪薬を与えるようなものです。
三橋貴明などの経済学者が言っているのは①です。
デフレなら政府が公共事業や給付を行って消費者に資金を供給することで、需給を正常化させることができます。
あるいは消費者が欲しい物を手に入れるために仕事や借入をしたり、生産者が価格や生産量を調整することでも解決するかもしれません。
しかし、実際の日本の病状は②であり、経済活動が縮小している状態です。
状況がまるで違うので、同じ対処をしても意味がありません。
デフレ不況なら、政府が金を出して溢れかえった失業者に生産活動を行わせればいい。
けれど、今の日本には高齢者とニートはいても、労働意欲と能力に長けた失業者は多くありません。
下手に公共事業を行えば人手を奪われた零細企業は倒産し、生産力はますます低下してしまうでしょう。
仮に好景気で生産も所得も増えたとしても、社会保険料や税金の支払いも上がってしまうので効果が薄い。
労働時間が延び、女性の社会進出が進んだ状態でたくさんの子供が産まれるとも思えない。
今だけカネが出回ったところで、人口比率が悪化し続ける限りは根本的な解決になりません。

もしも出生率が回復しなければ、より少ない人数で多くの高齢者を支えなければならなくなります。
そうなったら人間の代わりにロボットに働かせるか、海外から移民を受け入れるか、最悪昔のように年寄りを泣く泣く姨捨山に送ることになりかねない。
結局のところ、デフレやスタグフといった用語はたいして重要ではありません。
高齢化の生産力低下より技術の発展による生産力向上のほうが大きければデフレになるし、生産力低下のほうが大きければスタグフになります。
どちらにせよ、現役世代は増えすぎたリタイア組のために大きな負担をしなければならない。
社会保障は若者を貧困化させ、少子化で経済を加速させています。
景気変動や労働分配率の低下、所得格差による貧困がないとは言いません。
しかし、今の私達が直面しているのはそれではない。
お金は分配の道具であって、現実のヒトやモノを増やしてくれるわけではありません。
デフレに責任を押し付けるのは止めて、この現状を作り出した人々の姿を直視すべきではないでしょうか?

⇒MMT理論の嘘 埋蔵金も打ち出の小槌もないんだよ
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