政府支出は経済成長を妨害する

借金増えるほど成長率下がっとるやん・・・
<今回の話の要約>
・政府支出がGDPを上げるとは限らない
・GDPは労働者の数と生産性に依存する
・高齢化社会において官需は民需を圧迫する
<経済成長と歳出の関係>
・生産年齢人口増加→経済成長→税収増加→歳出増加 (正しい)
・財政出動→歳出増加→経済成長 (因果関係を逆転させたデタラメ)
経済成長を測る指標であるGDPは、以下のような計算式で表されます。
GDP=消費+投資+政府支出+輸出入
三橋貴明ら経世済民・反緊縮(財政リフレ派)はこの式を使って
「政府支出が増えると経済成長する」
という社会主義思想を振りまいていますが、デタラメもいいところです。
「無駄飯食らいが増えると社会が豊かになる」
が間違いなのは小学生でもわかると思いますが、中途半端にマクロ経済学を学ぶとそんな戯言を信じてしまう人もいるようです。
これは放漫財政を正当化して利益誘導を図る詐欺なので、絶対に騙されてはいけません。

計算式を見るとあたかも政府支出に比例してGDPが増えるように思えますが、これは恒等式を利用したトリックです。
現実は複数のパラメータ(個人消費や投資)が相互作用するので、他を固定しながら政府支出とGDPだけを増やすことはできません。
そもそも政府支出とGDPが比例するなら、無限に借金すれば無限に経済成長できてしまいます。
ジンバブエだって米国以上の経済大国になれてしまうので、おかしいのは明らかでしょう。
<なぜGDPが増えないのか>
まず理解しなければいけないのは、
GDP=消費+投資+政府支出+輸出入
が消費の観点から見た式だということです。
本来GDPは国内総生産なので、生産の観点から見なければいけません。
飯を食うのは数分で終わりますが、飯を作るのは多大な時間と労力を必要とするのだから。
国内総生産とは、「国内で生産された付加価値の総量」なので、労働者一人一人の生産の合計になります。
GDP=1人あたりGDP×労働者数

付加価値というと難しく感じますが、国民が作った製品やサービスの合計です。
肉も魚も、テレビもスマホも、介護も医療も、日本人が働いて社会に貢献した分を合算したのがGDPになります。
仮に日本人全員が米農家だとしたら、1年に作った米の価値がGDPになります。
GDP=米生産=1人あたりの米生産×労働者数

この式からわかる通り、GDPを増やす方法は以下の二つです。
・労働者の数を増やす
・1人あたりの生産量を増やす
なので、日本が経済成長したければ出生率を上げるか移民を入れるかして、労働者を増やさないといけません。
あるいは企業が競争を通じてより価値の高い製品を作るか、効率を上げる必要があります。
中国や東南アジア諸国の成長率が高いのは人口がどんどん増えるとともに、市場原理が働いているからです。
では、一度消費の式に戻ってみましょう。
GDP=消費+投資+政府支出+輸出入
これを米農家に直すとこうなります。
GDP=米の生産=国民が食う米+役人が食う米+輸出する米
左のGDPが生産力によって決まるとすれば、右の項目によって変動することはありません。
生産の結果米が1000tなら、その1000tを国民・役人・輸出の三者で分け合うことになります。
米1000t=国民が食う米+役人が食う米+輸出する米
ここで、
「役人が食う米を増やせばGDPが増えて経済成長する」
と言う人はいませんよね?
いくら無駄飯食らいが増えても、米の量は増えません。
どれだけ米が収穫できるかは農家の努力や気候条件、土地の面積などに依存するからです。
だから、三橋信者の言う
「政府支出が増えると経済成長する」
はデタラメなのです。

<官需は民需を圧迫する>
国民の豊かさは個人消費なので、それを測るために式を変形させてみましょう。
GDP=消費+投資+政府支出+輸出入
↓
GDP-政府支出=消費+投資+輸出入
↓
消費+投資+輸出入=GDP-政府支出
あれあれ、変ですね。
消費・投資と政府支出が対立しています。
「政府支出が増えるほど民間の消費・投資が減る」
という結論が出てしまいました。
政府が公共事業をすると、国民の飯が減るんですかね?

これも恒等式を利用したトリックなのですが、こちらの方がよほど実体経済に近いと思います。
江戸時代以前の日本では、殿様が農民から年貢を取り立てていました。
役人が年貢を増やせば、農民の食料が減ってしまいます。
つまり、上記の
「政府支出(年貢)が増えるほど、民間の消費(農民の飯)が減る」
が成り立っていたわけです。
太平洋戦争の日本はもっと深刻で、戦費のために多大な財政支出を行っていました。
戦争のために資源が費やされた結果、日用品や食料の生産は大きく減少。
「欲しがりません。勝つまでは」という標語のもと、国民に困窮を強いました。

海外でも毛沢東やスターリンは大規模な公共事業に人員を割き、何千万という餓死者を出しました。
「政府支出が国民の消費を低下させる」というのは明らかな事実です。
もちろん、反論もあるでしょう。
「今は江戸時代や戦時とは違う。
十分な資源と人員があるのだから政府支出に合わせてGDPを増やせるはずだ」
と反緊縮なら言うかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか?
確かに失業者が大量に発生していた大恐慌時代であれば、余剰人員はいくらでもいたでしょう
ニューディール政策のように公共事業を行えば失業者が労働者になり、GDPは伸びたかもしれません。
(需給バランスの調整であって経済成長ではないけれど)
けれど、日本の失業率は世界最低。

高齢化率は世界最高。
有効求人倍率はバブル期に迫っています。

データからわかるように、日本は最も人手不足。
とても公共事業や自衛隊にさける余剰人員はいません。
(ニートや高齢者はたくさんいますが、戦力外)
少ない人員で経済を回さなければいけないのに、政府は予算の大半を社会保障費に回しています。

社会保障費の大半は高齢者の介護と医療。
これを公共事業と捉えるなら、日本政府は120兆円規模の公共事業に日本の人的資源をつぎ込んでいます。
高齢化社会で若い労働力は非常に貴重。
その大半を高齢者の面倒を看ることに費やして、国内の産業が発展するでしょうか?
どんどん人口が増えていく発展途上国に対して、グローバル競争を勝ち抜けるのでしょうか?
エセ賢者にはそうは思えません。

社会保障以外にも、日本政府は様々な出費を行っています。
・日銀の株買い
・Gotoキャンペーン
・クールジャパン
・オリンピック
・電子決済のポイント還元
・レジ袋有料化
・アベノマスク
・東電、JALの救済
反緊縮は緊縮財政という妄想に憑りつかれていますが、実態は借金塗れ。
放漫財政にもほどがあります。

政府支出は、国民に働かせること。
支出を増やすのは増税と同じです。
当然国内の人的資源・物的資源は浪費され、国民のための生産や技術開発は遅れることになります。
政府支出を増やすほど成長が遅れる現状は、この式の正しさを示しているのではないでしょうか?
消費+投資+輸出入=GDP-政府支出
インチキ経済学者は潜在GDPや需給ギャップを根拠に成長余力があると主張しますが、そんなのは机上の空論にすぎません。
現代の企業はグローバル化で70憶人の市場を相手にしているのだから、日本にそんな余力があるなら貿易立国になっているでしょう。
現実は新幹線などの輸出も失敗し、豊富な労働力を求めて工場は海外に移転しています。
自給率が極端に低い国で需要を増やしたところで、貿易赤字を垂れ流すだけ。
国内の需要増加で所得を増やす作戦はグローバリズムを無視した鎖国理論であり、非現実的な妄想でしかありません。

繰り返しになりますが、GDPを決めるのは消費ではなく生産です。
日本人一人一人の生産活動の結果が合算され、GDPとして表れます。
GDP=1人あたりGDP×労働者数
働くのは若者であり、旺盛な想像力でもって生産性を上げるのも若者です。
MMT信者の言うように国債で金を出したからといって若く優秀な労働者は増えないし、経済が成長することもありません。
現在のように人手不足で公共事業ができず、公共事業費を使い残すだけです。
日本経済を立ち直らせたければ、支出削減・減税で若者の負担を下げなければいけません。
若者に十分な飯を与えれば自然と繁殖が行われ、労働人口が増えます。
重税を止めて仕事の成果が収入に直結するようになれば、労働意欲が向上して生産性が改善します。
無駄な仕事を増やしてGDPを水増しても、その分残業が増えて国民が疲弊するだけです。
専業主婦を減らし高齢者を酷使して、何が豊かになるのでしょうか?
仮に政府支出でGDPが上がったとしてもそれは軍事などの公共サービスの向上であり、国民生活には直結しません。
GDPの提唱者であるサイモン・クズネッツも「政府支出を含んだGDPでは国民の豊かさは測れない」と述べています。
くれぐれも、
「政治家はもっとお金を使うべき」
「政府は仕事を作るべき」
といった社会主義者の詭弁に騙されないように。
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